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脳梗塞からの生還-右半身が動かなかった男が三冠王者になるまで-PART1【期間限定無料公開】

ノア、04年8月8日、新日本プロレス大会佐々木健介戦後、控室で倒れ、救急車で運ばれた高山。そこで告げられた病名は脳梗塞。すぐさま手術を行い成功したが、そこから高山にとっての闘いが始まった。右半身麻痺から三冠ヘビー級王座を奪取するまでの道のりとは、いかなるものだったのか。

脳梗塞を含む脳血管障害といえば、日本人の死因でガン、心疾患についで第3位を占める大病。また運動障害、言語障害を伴う病気のため、プロスポーツ選手で脳梗塞から復帰した前例はないとされている。そんな常識を打ち破り、現役に復帰し、それだけでなく、先日、3・14全日本プロレス両国大会でグレート・ムタを破り、三冠ヘビー級王者にも輝いた“超人”がいる、それが高山善廣だ。

5年前の夏、新日本での試合後に倒れてから、再びプロレス界のトップに立つまでには、どんなことがあったのか。“プロレス界の帝王”だけに、この“偉業”をさも“あたりまえ”のことのように語る高山がいた。
※2009年5月発売、『kamipro 132号』(エンターブレイン)より再録

聞き手/堀江ガンツ



復帰戦のときなんて、
オレがダウンしただけで
「あ、死んだんじゃねえか?」って
会場がシーンとしてえたからね(笑)



——完全復活おめでとうございます!

高山 これが完全復活かわかんないけどね(笑)。

——でも、脳梗塞で倒れた人間が三冠ヘビー級王者となったわけですからね。というか、高山さんが脳梗塞になったってことを観客が忘れてますよね(笑)。

高山 忘れてるね、完全に。小橋健太のガンにかき消されてるよ(笑)。

——でも、その「忘れさせた」ということが、ホントに復活したってことなんでしょうね。

高山 そうだろうね。病気を引きずって、それを見せたたら復活じゃないもんね。

——観ている側もヒヤヒヤしながら観るっていうのは健康的じゃないし。

高山 違うスリルがあるよね(笑)。言われてみれば、確かに復帰戦のときなんて、オレがダウンしただけで「あ、死んだんじゃねえか?」って会場がシーンとしてえたからね(笑)。

——それがいまや、グレート・ムタに流血させられても、べつに心配しませんもんね。

高山 血管詰まった人間が血を流してんのにね(笑)。

——高山さんも、ここまで体調が戻るとは思ってました?

高山 いや、戻らなくちゃいけないと思ってたんで。質問の答えになってるかどうかわからないけど、「戻ってみせる」と思ってたとしか言えない。

——では、倒れてから現在までの道のりをうかがっていこうと思うんですが、もともとは5年前の新日本プロレス大阪大会(04年8月8日)、佐々木健介戦の試合後に倒れたんですよね? あの時の状態はどうだったんですか?

高山 倒れたのは試合後だったんだけど、試合中もちょっとへんだったの。もっと言うと、あの試合の1~2週間前にノアの大会があって、そのときロープに走ったら、足がうまく動かせなくてつまずきそうになったことがあったんですよ。

——そんな前から予兆はあったんですか。

高山 でも、それはその一瞬だけだったから、あとは気にしなかったんだけど。あとはそのあと、佐野(巧真)さんと試合した時頭から落とされて、首が原因でこの先、試合ができないんじゃないかってくらいひどかったんだけど。いろんな治療をして、なんとかごまかしてできるようになって、そのままG1が始まって。初日が相模原の大会で中西学とやったんだけど、そこが夏なのに冷房入れてないんだよね、プロモーターがケチってさ(笑)。そこでちょっとフワフワしちゃって。なんかいつも以上に身体が疲れておかしいなと思いながらも大阪に行って。で、健介戦。

——では、疲れやらケガやら、いろいろ重なってたんですね。

高山 健介戦では普通に試合してて、体も動いたんだけど、一回だけビッグブーツ(十六文キック)の動きをしたときに、健介の顔を蹴った感覚がなかったの。

——足に感覚がない。

高山 「あれ?」って思って。でも、そのあとまた戻ったから気にしないでやってたんだけど、試合後に控室前野通路で囲み取材を受けてたら、なんか話しててもいつもみたいにポンポン言葉が出てこないんだよね。

——頭が回転してないというか。

高山 そのとき懸賞金をもらってから右手で持ってたんですけど、インタビューが終わって、立ち上がった瞬間にそれを落としちゃって。代わりに誰かが拾ってくれたんですけど、右手で受け取れないから左手で受け取って、控室のドアを右手で開けようとしたら、ドアも開けられないんですよ。

——もう完全に右手に力が入らない状態になってたんですか。

高山 だからドアも開けてもらって。で、入ったらヒロ斉藤さんがいたんだけど、「あ、ヒロさんだ」って思った瞬間、立っていられなくなって倒れて。ヒロさんは「何、ふざけてんの?」とか言ってたんだけど(笑)。

——まったく信用されてない(笑)。

高山 ヒロさんは大先輩だけど、いつも一緒にふざけてたりしてたから「またこいつ、俺のことからかいやがって」って思われたんだろうな。それで「ふざけてない」って言いたかったんだけど、それが言葉にならなくてアワワワワってなっちゃって。で、これはおかしいってことでみんなが来て。

——すぐに救急車を呼ぶわけですか。

高山 うん。でも、(リングドクターの)林先生が駆けつける前は、忘れもしない天山が、この状況なのに「何ふざけてんの」とかまだ言ってて。

——一刻を争う事態なのにのんきに(笑)。

高山 「またまた~」とか言ってね。コノヤロー! って思ったけど。まあ、俺がいつもこういうことやってるからいけないんだろうけどさ。

——危うく天山のおかげで処置が遅れそうになりましたか(笑)。

高山 牛のおかげで死にかけたから(笑)。

※PART2は3月13日(金)公開予定