TEXT ARCHIVES 高山文庫
“帝王学”を教わった三沢男塾 PART1【期間限定無料公開】
UWFインターナショナルでプロレスデビューを果たした高山善廣に、本当の意味で“帝王学”を授けたのは三沢光晴だった。全日本プロレス、ノアを通じて激闘を繰り広げた好敵手であり、影響を与えた大きな存在だ。帝王が明かす一流のプロレスラーになるための扉とは!?
聞き手/堀江ガンツ
2014年9月13日発売
『俺たちのプロレスvol.2』より再録
(発行/双葉社)
本当の意味で「プロレスを知ることができるかどうか」っていうのは、
あのドアが開けられるかどうかがすべてかもしれない。
――高山さんは以前、「三沢さんから受けた影響は凄く大きい」って言われてましたよね?
高山 そうだね。影響は大きいよ。
――それは全日本プロレス時代からですか?
高山 うん。俺は最初、(ジャイアント)馬場さんに呼ばれて全日本に上がり始めたんで、馬場さんと俺とのやり取りしかなかったんだけど。馬場さんが亡くなってから三沢さんが社長になって。その後も、普通にフリーとして全日本に上がり続けるつもりだったんだけど、三沢さんが「それじゃ不安だろうから、入団したほうがいいんじゃない?」って言ってくれて。それで入団したんだよ。
――もともとフリー参戦だったのが、三沢さんの一言で全日本所属レスラーになった、と。
高山 あのときは単純にうれしかったね。フリーでもべつに不安とかはなかったけど、ちゃんと俺のことを考えてくれていた人がいたっていうことがうれしかった。
――新社長が高山さんの立場に立って考えてくれたわけですもんね。それまで、三沢さんっていうのは、リング上ではエースでしたけど、全日本内部ではどんな立場だったんですか?
高山 やっぱり現場のトップだったよ。馬場さんは別格だったから、馬場さんが天皇陛下だとしたら、三沢さんは総理大臣、ホントそんな感じだった。
――なるほど(笑)。でも、馬場さんという“天皇”が崩御されたことで、三沢さんが完全なトップには立ったけれど、いろんなバランスが崩れてしまったわけですよね?
高山 そうだね。当時、会社の上層部内でいろんなゴタゴタがあったんで、三沢さんも、しんどそうだったよね。
――高山さんもそういう状況がよくわかるくらいだったんですか?
高山 なんとなくだけどね。ゴタゴタしてるのはわかったんで、三沢さんもこのまま続けていくのはしんどいだろうなっていうのは、わかっていた。
――では、団体が割れることになる予感はありましたか?
高山 どうなっちゃうのかっていうのは、予想もしなかったし、予感もなかったんだけど、ただ、大変そうだなって思ってたね。
――そして、ある日、三沢さんから新団体参加についてのお誘いが来るわけですか。
高山 そう、急に普通の巡業中に言われたんだよ。当時の全日本は日本人選手用のバスと外国人用バス、その他に三沢さんが乗ってる社長バスっていうのがあって、俺は当時ノー・フィアーとして活動してたんで、他の日本人とは別行動で、社長バスで移動してたの。それでも、ホテルはみんな一緒のことが多かったんだけど、その日は社長バスだけが違う旅館に泊まってね。そのときは、「まあ、部屋数の関係もあるだろうから、そういうこともたまにはあるかな」って思ってただけなんだけど。夜、旅館だから一緒にメシを食ってたら、突然、三沢さんが「全日本を出て、新しいところでやっていくつもりなんだけど。高山選手も来てくれないか?」って言ってきたの。
――そのとき、高山さんは二つ返事ですか?
高山 うん。当時の俺は、団体うんぬんじゃなくて、「三沢さんと闘いたい」っていう気持ちが強かったから、三沢さんが行くなら行くって。
――「三沢さんと闘いたい」っていうのは、どんな理由からですか?
高山 全日本では、最初、川田利明を追いかけてきて、それが一区切りがついたあと、小橋健太と闘うことにやる気になってて。後半になると三沢さんと絡み出すようになったの。三沢さんとやる前は、そんなに「闘いたい」とは思ってなくて、「三沢さんはどうなんだろう?」ぐらいの感じだったんだけど、やってみたら奥が深すぎた。底が見えない底なし沼みたいな感じで、「うわっ、この人すごい」ってなって、「この人に向かっていったら、俺はどんどん成長できる」と思った時だったんだよね。
――ちょうど、三沢さんの凄さを感じて、もっともっと闘いたいと思っていた時だった、と。
高山 そう。
――じゃあ、「全日本四天王」って一括りにされてましたけど、ほかの3選手と三沢さんは全然違いましたか?
高山 違ったね。ホントに全然違った。
――それは闘ったときの当たりが違うとか、そういう単純なことではなくて。
高山 うん。なんて言うんだろう、何をやっても大丈夫っていう、そんな感じ。
――よく「すべてを受け止めてくれる」みたいに言いますけど、そういう感じですか?
高山 ホント、そんな感じ。しかも、それは容赦なくガンガンいって、やった俺だけが満足するんじゃなくて、そうさせることによって、観ているお客さんも満足させる試合に成立させるんだよね。ホントそれが凄くて。「すげえ!」って心から思ったもんね。
――相手がどんなふうに来ても、それに合わせられる能力というか。
高山 オールラウンドプレイヤーというのは、ああいうことを言うんだろうなって思ったね。
――プロレスは個性と個性のぶつかり合いとも言われますけど、三沢さんの場合はぶつからずに、融合するというか。
高山 ぶつかってるんだけど、それを融合させる。なんかね、ニック・ボツクウィンクルの言葉どおりなんだよ(笑)。
――「相手がジルバで来たらジルバで、ワルツで来たらワルツを踊る」という(笑)。
高山 そうそう(笑)。だから俺は三沢さんと闘うことで、「これがプロレスなんだ」って思ったもん。
――そこに初めて触れて気づいた、と。
高山 そう。それまでは、さっきのニック・ボックウィンクル言葉、「ワルツで来たらワルツを踊れ」なんて、「何言ってんだ、バカ野郎」って思ってたんだけどさ(笑)。三沢さんに触れたら、「そういうことか!」って気づかされたんだよね。
――三沢さんと闘うことで、プロレスの扉をひとつ開けることができたわけですね。
高山 そして、その扉は凄く重要な扉だったね。本当の意味で「プロレスを知ることができるかどうか」っていうのは、あのドアが開けられるかどうかがすべてかもしれない。一流のプロレスラーになるためには、一番大事な扉だったね。
※PART2 は12月28日(金)公開予定。